山行期間 | 8月18日夜~21日 |
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メンバー | YMG、ASI |
山行地域 | 北穂高 |
山行スタイル | アルパイン |
夏合宿は、涸沢から北穂高岳東稜を経て、南岳、槍ヶ岳に至るコースを目指した。初日に上高地から一気に北穂高岳山頂まで高度を上げる。メインは北穂高岳東稜で、そこはバリエーションルートであり、高度感のある岩稜帯登攀が特徴となっている。
8月19日朝5時30分に上高地を出発。天気は終日不安定だけれども明日は好天との予報。河童橋からのぞむ穂高の山々の頂には雲がかかり、その動きから上空で強い風が吹いている様子がうかがわれた。いつもは清々しい上高地の空気が生暖かく湿っていた。
8時00分に横尾を通過、10時45分に涸沢に到着。長野側の空には晴れ間も見えるが、飛騨側から重量感のある雲が穂高の頂を覆い、時折、小雨がぱらぱらと落ちてくる。午後からは雷雨の可能性もあるので、パーティと相談し、今山行の目標は、北穂高岳東稜登攀の完遂に絞った。そして、ほぼ徹夜のドライブで、睡眠不足もあることから、明日の天気に期待し、ゆっくり休養をとり、ベストのコンディションでアタックする方針とした。
翌日午前4時45分、雲一つない神秘的な黎明の時、涸沢を出発。ヘッドライトの灯をたよりに北穂高岳南陵を登攀する。高度を上げて途中から北穂沢をトラバースし、5時40分、東稜の取り付きに至った。途中、穂高連峰の燃えるようなモルゲンロートに心を奪われた。
東稜稜線に出てからは、パーティにとっては初めてのルートなので、安全確保を最優先し、ロープを積極的に使用することにした。東稜稜線からの360度の展望は、本当に素晴らしい。左に穂高連峰と涸沢カールを、右に槍ヶ岳、南岳、常念岳方向を一望しながら、その稜線をマルチピッチで登攀していく。まさに空中散歩だ。高度感はそれなりにあるものの、足場がしっかりしており、落ち着いて歩けば、それほど怖くない。
しばらく、清々しい青空の下、東稜を気持ちよく進んでいると、右側に大きなレンズ雲が浮いているのが見えた。天候悪化の兆候だ。案の定、1時間も経たないうちに、飛騨側から見るからに重たそうな雲が垂れ込めて、湿った空気が流れ込んできた。そして、東稜の核心部である通称「ゴジラの背」と呼ばれる部分を通過中に、とうとうパラパラと雨が降り出した。「こんな場所で降らなくても・・」と恨み言をいいながら、慎重に手と足を進めていく。
「ゴジラの背」の最終点には、しっかりした支点が構築されていたので、それを使って20mほど懸垂下降した。そしてロープをザックに入れて、北穂高岳山頂を目指して登っていく。天気が良ければ、北穂の小屋も見えるので何ら問題ないルートだろうが、雨の中、濃いガスで視界が遮られている上、バリエーションルートなので道標もない。稜線から外れることのないように登りつめるしかないが、道は結構、険しく、ルート・ファインディングの力が試される状況となった。慎重にルートを確認しながら高度を上げていく。そのうちにガスの中から北穂小屋の影がうっすらと見えて安堵した。11時00分に北穂小屋に到着。後から振り返ると、東稜の岩稜登攀よりも、天候の悪化により、ゴジラの背から北穂小屋までの間が今回の核心だったと思う。
北穂高山頂では、風雨は一層強まっていた。パーティと相談して、天候回復が見込めない状況で、キレットを経て南岳を目指すことは断念し、北穂南陵を通って涸沢方向に下山することに決めた。11時30分、北穂高岳小屋を出発し、一般登山道の南稜を下る。14時00分に涸沢に到着し、そのまま、一気に下山して、17時40分には徳沢に到着した。朝5時前に出発したので、その日は13時間歩いたことになる。歩きごたえは十分だった。
徳沢は、約30年前、高校山岳部夏合宿で、槍ヶ岳から槍沢を経て上高地に向かう途中に立ち寄ったことがある。当時、どこかヨーロッパ的なその美しいキャンプ場に見惚れて、いつかテント泊できればと思った。今回、予定外であったが、くしくもその願いが実現した。ふかふかの芝生の上にツエルトを立て、すばらしく快適な環境の中で、北穂高岳東稜登攀達成の祝杯をあげた(ASI記)。