山行期間 | 2015年6月1日(日) |
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メンバー | SGY, KTYF, ITN, ABE, HND, KNS, SKD, UZU, DTE, NKO, ISK, KRA, ASI, SKM |
山行地域 | 百丈岩 |
山行スタイル | 岩登り |
5月31日、兵庫県神戸市北区の百丈岩で行われたBチームの岩登り講習に参加した。
天気は雨との予報であったが、前夜泊のテント設営中、若干の雨に降られた程度で収まり、
当日は、クライミング日和となった。
早朝、爽やかな空気に包まれる中、百丈岩のテラスに向かう。
野鳥のさえずりが耳に心地よい。しばらく歩いて、額に汗を感じ始めた頃、
百丈岩が一望できるスペースに到着した。
やや薄いグレー色の聳え立つ岩は、ところどころの新緑が美しいアクセントを添えている。
基底部からトップまでは、約60メートル、実に威容のある姿だ。
じっと目を凝らすと、中腹付近には、忙しくクライミングロープを操る人影が見える。
そのヘルメットの鮮やかな色が、まるで岩肌にしがみつく、何やら怪しい昆虫を連想させた。
「すごいなー。あんなとこ、よう登るよな。見てるだけで緊張するな。
何年かしたら、俺もあんなとこ登ってるんかな・・・」と、まったく他人事のように 、
そばにいたUZUさんに話しかけた。
その5時間後に、UZUさんと、そのピークに立つことになるのだから、人生、一寸先もわからない。
指導してくださったリーダーは、HNDさん。
確保技術、登攀要領、懸垂下降等、一連のクライミング方法について懇切丁寧に教えて頂いた。
泉州山岳会には、経験豊富なリーダーがたくさん在籍している。
ボランティアで熱心に後輩の育成に携わるリーダーの存在は非常に心強く、心から尊敬している。
ほかの山岳会のことはわからないが、今の時代、これほど面倒見の良い山岳会は他にないのではないか。
クライミング実技を開始。まずは、懸垂下降。岩肌に打ち込まれたピンの安全を確認し、
セルフビレイをとりながら、3つのピンに、カラビナとシュリンゲをかける。
HNDさんの指導の下、2本のロープを結束して、流動分散でセットしたシュリンゲに
安全環付カラビナをかけてロープを通す。そして、ロープを確保器に通してハーネスに固定、
マッシャーでバックアップをとって下降開始。ゆっくりと壁を降りていく。
懸垂下降は常に私の童心を刺激する。とても楽しい。
次に登攀。リードはHNDさん。私はセカンド。UZUさんはサード。
ロープをハーネスに結び、セルフビレイをセットする。お互いの安全を確認し、
HNDさんは、するするっと熟練の動きで岩を登っていく。続いて私。特に難しいところはない。
三点支持、三点支持と頭の中で唱えながら、少しずつ、ぎこちなく登っていく。
HNDさんが、トップでしっかりと確保してくれているので恐怖感はなく、ただただ楽しい。
続くUZUさんも満面の笑みで登ってくる。そして、3人が終了点にたどりついた。
「ぜんぜん大丈夫そうですね。ろうそく岩を登ってみましょうか」とHNDさん。
まだまだ登りたい私に異論はない。
一旦、懸垂下降で基底部まで降りて、やぶの中を進む。
そして、目の前の岩を見上げて驚いた。あの聳え立つ岩ではないか。
“ろうそく岩”がテラスから見えていた岩のことだとまったく認識していなかった。
基底部からは、ほぼ垂直に見える巨大な岩峰。さっきまでの楽観的な気分が一転、曇り始めた。
リードはHNDさん、セカンドは私、UZUさんはサード。初めてマルチピッチで登る。
装備の安全を確認し、HNDさんがするするとしなやかに登っていく。
ほぼ垂直なので、HNDさんの一挙一動がよく見える。ホールドの取り方、
体重移動の仕方、重心の置き方など、とても勉強になる。
中間テラスについたHNDさんの「どうぞー」の声が響いた。
覚悟を決め、登り始めたものの、さっきとは比較にならないほど登りにくい。
2メートルくらい登ったところで足を滑らせて、ロープに体重をかけてしまった。
“頭で考える前に、先に身体を動かしていた”と反省し、「慎重に、慎重に」と
自分に言い聞かせながら、少しずつ、少しずつ登っていく。
1ピッチ目の終了点に近づくと、HNDさんの「そこが核心部分ですよー」との声が聞こえた。
中間テラスの下の2~3mの辺り。登ろうとしても、私の未熟な技術ではホールドがとれない。
足元を見ると絶壁。HNDさんが万全に確保しているのは理解しているが、
動物的本能なのか、頭の中で“アラーム”が鳴りはじめる。
悪戦苦闘、思い切って右手をグッと伸ばすと、何とかホールドが見つかった。
次に、左足をぐっとあげるとまたホールドが見つかった。体の硬い私には辛いポーズであったが、
そのままグッと体を持ち上げると、やっとのことで、核心部をやり過ごすことができた。
そして、HNDさんのいる中間テラスのアンカーにたどりつき、セルフビレイをとって、
UZUさんを待つ。
なんばのグラビティに通っているUZUさんは、さすがに身の動きがスムーズだ。
先ほどの核心部も難なく登ってきた。
2ピッチ目。HNDさんが凹角の両サイドに片足ずつかけて、レインジャー隊員のように、
するするっと登っていく。そして「どうぞー」の声が響く。私もHNDさんの真似をしようと、
両壁に片足ずつかけて登ってみる。身体が硬くて、十分に開かない自分の足を情けなく思いながら、
どうにかこうにか凹角を抜けた。下方を見ると、正真正銘の断崖絶壁だ。
気合を入れて上方を凝視し、少しずつ、少しずつ、慎重に手足を前に進めていく。
これまでの人生で、こんな“崖の壁”に立ったことはない。
岩にへばりつきながら「まだまだ、知らない世界があるなあ」と思うと、
目前に広がる絶景が今まで以上に美しく、手に触れる岩の感触も一層刺激的に感じられた。
登山を始めたのは高校の山岳部に入った時。
初めての夏合宿で、ニッカボッカをはいて、北アルプスの白馬岳に登った。
頂上山荘からみた白馬三山の美しい姿は今でも鮮明に記憶している。
大学に入ってからも山岳部を考えたが、お金がかかるということで断念した。
社会に出てからも、万事、仕事が優先で、週末はじっくり休みたくて、山のことは忘れていった。
私が登山を再開したのは、2年前の春。7年ぶりに地元の大阪に戻ってきた時だった。
40歳後半になって、いろいろ先が見えてきた。
日々の生活に大きな変化はなく、漫然と時が流れていく現実に焦燥を感じ始めた。
同い年の友人も、同じことを言う。居酒屋で「なんか、面白いことないかなー」とため息交じりに言うことが多くなった。
この年代は、何か新しいことを見つけたくなるようだ。そんな時、私は登山を思い出した。
初めて見た「白馬三山」がまた見たい、特にその冬の姿を。学生の時には買えなかった装備も、
今なら何とかなる。もう一度チャレンジしてみようか。
2ピッチ目を登り切ってピークに立った。HNDさんがロープを忙しくたぐりながら、
穏やかな笑顔で「お疲れ様、ぜんぜん余裕でしょ」と一言。
「すみません、それほど余裕じゃなかったです」と私。続いてUZUさんも、笑顔でトップに到着。
達成感で気持ちが高揚する。克服した恐怖心は、充実感を倍増させるのだろうか。最高の気分だ。
ベテランのクライマーにとっては、百丈岩は易しい岩かもしれないが、
私には、高校時代に初めて経験した「白馬岳」級の感動があった。
この“ろうそく岩のピークに立つ”という素晴らしい経験を支えてくれた泉州山岳会の皆様には、本当に感謝している。
(ASI記)