アルパインクライミングを目指す泉州山岳会へようこそ! 大阪府山岳連盟所属

ホームリンクサイトマップ
入会募集中
泉州山岳会とは山行記録イベント

会員限定

山行スケジュール役立つ資料の共有EPE

甲斐駒ヶ岳 赤石沢ダイヤモンドAフランケ-赤蜘蛛ルート-15/10/26

山行期間 2015年10月18日~19日
メンバー KTYM(F),KTYM(M)
山行地域 甲斐駒ヶ岳 赤石沢ダイヤモンドAフランケ
山行スタイル 岩登り

甲斐駒ヶ岳の赤石沢ダイヤモンドAフランケを登攀した。めざしたのは赤蜘蛛ルート。

先週の三連休に、はじめてこのエリアを訪れた。その際は、初日に取付までの下見を済ませはしたが、その深夜から降り出した雨のため、登攀を中止したのだった。だが、おかげで心配材料がずいぶん減った。
その結果をうけて、今週は二日で登る計画を立てた。極限まで軽量化し、壁の中でビバークして二日目には完登・下山しよう、と。

成功の要因は、一に好天、二に好天。それがすべてだった。

甲斐駒概念図
赤蜘蛛ルート図

甲斐駒ヶ岳と赤石沢奧壁

赤蜘蛛の取付にいたるバンド

Aフランケの中央部

 

Aフランケ

 

赤蜘蛛ルートの下部ジェードル

10月18日 晴れ 入山~4ピッチ目
どこまでも青い空、心地良くそよぐ風。ああ、気持ちいい。富士山は頂上に冠雪があり、北岳もまた然り。黒戸尾根の八合目で身支度を整えた。ここから、Aフランケをめざして下降していく。

Aフランケの頭の岩小屋で、水1リットルと若干の行動食をデポした。明日、ここで力尽きて二回目のビバークを余儀なくされた場合のための備えだ(結果的に、ビバークこそ回避したものの、この水がなければ危険なほどに脱水を進行させてしまった)。

赤蜘蛛ルートの取付に立った。一週間ぶりの再訪。前回は曇天の下であまり冴えない顔色の岩壁を拝んだが、今日は違う。青空に映える白い岩壁が、実に凜々しく見えた。

12時20分、いよいよ登攀開始だ。取付が抉れているため2ピン目に手が届かない。ここをショルダーで越すと、あとは単調な人工登攀だ。まずは小手調べといったところ。

2ピッチ目でジェードルに入る。結構な勢いでロープが出て行く。やがて勢いがゆるみ、止まっては進み、また止まっては進み・・・。45mほど出たところで「残り5m」とコールしたら、「もうすぐ着く」とのこと。コーナーの左側にあるクラックに沿って20mほど登ったあと、コーナーに走るクラックを一気に攀じていた。私は、右へ左へとレイバックの向きを替えつつ、セカンドなので、かなり強引に登った。

3ピッチ目は、クラックから離れて左の斜面を人工でたどった。V字ハングの直下でピッチを切った。

4ピッチ目、V字ハングを左から越えた後の、右上に移る部分が嫌らしい。トップが上から何か訴えかけてくるが、聞き取ることができなかった。フォローしてみて、その意味がわかった。岩が風化して脆く、スタンスが悪いのだった。ここが、このルートで最も条件が悪いと思った。

16時15分、二人揃って大テラスに立った。これは立派なテラスだ。今夜は、ここがねぐらだ。その前に、5ピッチ目にザイルをフィックスした。ブッシュの生えた凹角からカンテを左に回り込むと、上部ジェードルとご対面。明日はそこをいかにスピーディに抜けるかがポイントだ。

夕食は、行動食の延長のような簡素なものだ。それでも、暖かい飲み物とともに腹に入れれば、多少は落ち着けた。ただ、明日の行動用に水を残しておくと、ビバークで使える水は1リットルほどだ。これは少なすぎて、翌日、脱水を引き起こした。明らかに計画上のミスだった。

夜半、外に出てみると、煌々ときらめく星の海。それを遮って、真っ黒な岩壁のシルエットが浮かんでいた。振り返ると、オリオンが東の空を駆け上がりつつある。もう、そんな季節になったのだ。

10月19日 晴れ 5ピッチ目~下山
朝日に照らされた岩壁が赤く染まり、気持ちが再び高まってくる。昨日フィックスした5ピッチ目を登り返し、6ピッチ目に入った。

ルートは顕著だ。点々とつづくボルトを追うとリスに導かれる。ふと、不安がよぎる。はたして、手持ちのカムが足りるだろうか・・・? 用意したカム類は、#0.3~#1を合計8個だ(便宜上、キャメロットのサイズで表す)。#0.5以下を重点的に用意したつもりだが、それでも見込みが甘かったと、後悔した。不安を抱えつつボルトラダーをたどり、リスに突入する。再び逡巡してしまった。#0.3~0.5あたりが、もっと必要だ。自分のあぶみをかけたカムを回収し、持って上がることにした。そうしないと、上でプロテクションがなくなってしまう。だが、それではセカンドが登れない・・・、後で考えることにした。

リスには、アングルやコの字などのハーケンがいくつか残置されてあったが、うち1本はグラグラしていた。カムを節約したかったので、ハーケンを重ね打ちして補強し、ランナーに使った。こういったハーケンがいずれなくなってしまうことは、容易に想像できる。

このピッチの終了点は、久しぶりのあぶみビレイ。セカンドはリスに適合するサイズのカムを持っていないので、苦労するだろうと思っていたら、器用に登ってくるので感心した。どうやら、ナッツをセットしてあぶみに乗るという技を覚えたらしい。「初めてナッツの良さを知った」とは後になって聞いたこと。この機転はすばらしかった。

7ピッチ目、いよいよクライマックスだ。右手に迫る恐竜カンテを越えていくのだ。トップの体がスカイラインに躍り出る。そして、まず半身が、つづいて全身が、青空の中に吸い込まれていった。逆光の中で仰ぎ見るシルエットは、まるで、天国への階段を昇っていくかのように見えた。この白の伽藍の中で、一人、取り残された気分になった。下を見ると下部岩壁のスラブが一段と不安を煽る。だから、なるべく下を見ないようにした。やがて、コールを受けて、登りだした。ピンの間隔はきわめて適切だ。近すぎず、遠すぎず、快適に高度をかせぐことが楽しい。

8~10ピッチ目、傾斜の落ちた岩場から、ブッシュに突入、踏み跡を辿って、Aフランケの頭の岩小屋に達した。ようやく、長かった二日間が終了した。デポしてあった水1リットルを、ほぼ飲み干した。単に喉が渇いただけでなく、後半は行動判断にも支障を来していたように思う。

落ち着きを取り戻し、黒戸尾根の長い下りに踏み出した。最後まで天気がよくもってくれた。陽が傾くにつれ、紅く色づいた落葉樹の森に斜光が射し、しばし心が洗われる。ドングリの雨が降ってきて我に返り、先を急いだ。

<主な装備>
ザイル50m(8.0~8.1mm)・シュリンゲ×7・長シュリンゲ×2・縄シュリンゲ×2・カラビナ×17・安環付ビナ×2・ハンマー・捨て縄5m/各自
ジャンピング×1・ボルト×6・ハーケン×4・カム(#0.3~#1)×8・ナッツ×4/二人
※ランナー用のシュリンゲにもう少し余裕があるほうが安心。また、カムは#0.5以下が複数必要。

<行動時間>
10/18 4:40 尾白川駐車場→8:20 五合目→10:00~10:30 八合目→11:45~12:20赤蜘蛛ルート取付→16:15 4ピッチ目終了(大テラス)
10/19 6:05 大テラス→12:15~13:00 Aフランケの頭の岩小屋→14:30 五合目→17:20 尾白川駐車場

KTYM(M)記